大阪における新たな大都市制度導入に向けての一考察 ―英国ロンドンの GLA との比較を通じて―

和氣 海翔

Abstract


本稿は、大阪における新たな大都市制度導入に向けて、英国ロンドンの広域行政体であるグレーター・ロ ンドン・オーソリティーとの比較を通じて考察を行うものである。【1】現在日本で採用されている大都市制 度は政令指定都市制度と特別区制度であるが、政令指定都市制度は 1956 年の制度創設以来、これまで大きな 制度変更がされないままであった。政令指定都市の問題点として、1二重行政の存在、2住民自治の不足、 3財源措置の不足の三点が挙げられる。【2】一方、東京都で採用されている特別区制度は二重行政が解消さ れる一方、広域行政体の権限が大きくなりすぎることで、基礎自治体の自立性が確立されないという課題が ある。【3】新たな大都市制度としてのひとつとして、2014 年の地方自治法改正で政令指定都市内に総合区を 設置することが可能となり、また指定都市都道府県調整会議が新設されることとなった。総合区制度は住民 自治の拡充が期待され、また政令指定都市の廃止を伴わないため特別区制度より実現のハードルが低いとい うメリットがある一方、合区を前提としなければコスト増が予想され、また二重行政の解消に直接繋がる制 度ではないというデメリットがある。【4】そして大都市が広域自治体である府県から分離・独立し、府県並 みの権限と税財源を持つ大都市制度である特別市制度は、府県と政令指定都市の二重行政が完全に解消され るメリットがあるが、特別市内を一層制とすることは住民自治の後退に繋がる恐れがある一方、公選の議会 と区長を置き二層制とすることで一層制のメリットが失われ実質的に道府県の分割と変わらなくなるという ジレンマが存在する。【5】大阪都構想のもともとのモデルとなっていた英国ロンドンの広域行政体であるグレーター・ロンド ン・オーソリティー(GLA)は、2000 年に設置された地域政府で、ロンドン全域にわたる企画・戦略・調整 等を行い、実務を行わないという新しい形の広域行政の形である。ロンドンでは GLA の前身となるグレータ ー・ロンドン・カウンシル(GLC)が存在したが、公共支出の削減という観点から一層制を目指すサッチャ ー政権により中央政府主導で廃止された。しかし、GLC 廃止後のロンドンは全体を統合する組織がなくなっ たことによる諸問題から、広域行政体の復活の声が高まり、ブレア政権により GLA が設立されることとなっ た。GLA は、広域行政体の権限を小さくし、基礎自治体の権限を大きくすることで、GLC 時代にあった二重 行政の非効率を排除しつつ、広域行政の利点を活かす新しい二層制の形として機能しているといえるだろう。【6】日本とイングランドの地方自治体を比較すると、イングランドは日本に比べて取り扱う事務が限定 的であることや、歳入は自主財源比率が低く、中央政府の交付金・補助金に頼った構造である。また、日本 と異なり中央政府と地方自治体の事務の役割分担が明確になっており、さらに一層制を基本に再編されたこ とから中央政府と基礎自治体に多くの事務処理権限が付されている。これらの要因により自治体の機能が限 定的である故にロンドンでは GLA が機能的な行政体として存在することができているのではないか。そのた め、大阪にとって理想的な姿ではあるが、GLA の構造をそのまま当てはめた制度設計をすることはかなり難しいという結論に達する。【7】終章では GLA の機能性にできるだけ近づけるような制度設計を、広域行政体“グレーター・大阪”と称して行っている。



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