「未病改善」「健康寿命の延伸」概念を核としたまちづくりの現状とモデル化

小堀 清次

Abstract


(1)これまでの都市政策では、高度医療産業都市の構築が重視されてきた。しかし医療費や社会的コストの急増、QOL(生活の質)の観点の重視とともに、公共政策的には、そもそも病気にならない「未病」段階での対策や、健康のまま寿命を延ばす「健康寿命」の考え方の方が重要ではないかという視点があらわれてきた。本研究では、このような新しい視点にたつ先鋭的な事例を研究し、そのまちづくりの可能性について検討をおこなう。(2)新しい概念1「未病」とは、歴史のある古い言葉であり、「病気ではないが、健康では ない状態」を指し、この改善が病気予防に重要と考えられるようになった。健康と病気の中間 状態概念、すなわち、二分法の否定である点が優れていること、未病改善は介護予防に近いが 用語的には優れており、グレーゾーンを直視する勇気をあたえる。「介護予防」から「未病」 へ言い換えることにより、抵抗感を与えず、前向きに健康づくりをできる概念である。新しい 概念2「健康寿命」とは、健康に生活できる期間を指し、これと寿命との差の非健康期間がQ OLに大きく影響すること、たんなる寿命ではなく、「健康寿命の延伸」が高齢者のQOLに とって重要となる。また、1健康寿命の延伸を伴わない長寿化では「当人のQOL」は低下し 「医療費」は増大する、2健康寿命の延伸を伴なう長寿化では「当人のQOL」は向上し「医 療費」は増大しない、ことから、健康寿命の延伸も未病改善と似た概念として重要である。「介 護保険法改正」(2006 年)により介護予防概念が重要となったが、「介護予防」という概念は イメージ的に問題があり、新しくキーコンセプトである「未病」と「健康寿命」の概念が重要 となってきている。 (3)事例としては、神奈川、高石、阪南、吹田、柏、江古田などを分析した。 (3a)神奈川県における「未病改善」の取り組みでは、知事みずからが、「いのちプロジェ クト」知事就任あいさつ(2011 年)、「いのち全開宣言」(2013 年)、「未病を治すかながわ宣 言」(2014 年)、「かながわ未病改善宣言」(2016 年)をおこない、具体的取組として1)普及 啓発の手法(「かながわ未病改善協力制度」「未病センター」「未病サポーター」養成研修)、2) 未病改善の取り組み(啓発の取り組み、「ライフステージに応じた未病改善」、「未病改善の進 化 」、「 健 康 寿 命 日 本 一 戦 略 会 議 」( 2 0 1 3 年 )、 企 業 等 に よ る 「 健 康 支 援 プ ロ グ ラ ム 」( 2 0 1 6 年 )、 「医食農同源」などを展開、とくに「未病概念」を高齢者に限らず全世代(1子ども、2高校 生、3「未病女子」)に広げているところが優れている。(3b)つぎに、高石市、阪南市にお けるスマートウエルネスシティの取り組みは、健康ポイントなどのインセンティブ政策面で すぐれており、「健康マイスター」(2016 年~)、全国的な「健幸アンバサダー」の認定を推進 した。(3c)北大阪健康医療都市(健都)の取り組みは、本格的な健康都市づくりの先駆け である。中核施設を中心に健康公園の整備をおこなっている。事業概要としては、1国立循環 器病研究センター、2JR西日本の複合商業施設、3市立吹田市民病院、4健康増進公園、5 高齢者向けウエルネス住宅、6集合分譲住宅、7複合医療産業拠点(医療クラスター)「健都 イノベーションパーク」、8健康増進遊歩道(緩衝緑地)からなっている。(3d)URの健康 住宅プロジェクト群として、1)UR柏プロジェクトの地域包括ケアシステム、豊四季台にお ける地域医療福祉、2)UR江古田の杜プロジェクトのリブインラボの概要などがある (4)このような事例を分析した結果、健康政策は、まちづくりから医学までを包摂し、非 常に幅広い概念であること、なかでも新しい公共政策のパラダイムである「未病」や「健康 寿命」をキーとした「健康都市づくり」は多様な要素を含むので、本研究では、まず独自の試 みとして、年代特性から時間的枠組みをつくり、同心円的モデルから空間的枠組みをつくり、 最後に両者をかけあわせた時空間マトリックスをつくることを提案した。(5)時間的枠組みモデル(年代別モデル)を考える意義としては、1)中年期から高齢期にかけ、もっとも重要な問題は、「がん」と「生活習慣病」である。2)ところが、70歳代では、また別の課題がでてくる。各種筋肉の衰えであり、これに対する対策として、「生活習慣病」とは別の「筋肉トレーニング」や「良質のタンパク質の摂取」などの視点が重要となる。3)さらに80才代になると、介護予防、認知症対策などでPPKを目指すことが重要となってくる。これらから、以下のような3期の年代区分モデルをつくれる。★第I期=生活習慣病予防期(40 歳から 64 歳)。★第II期=フレイル予防期(65 歳から 74 歳)フレイル(日本老年医学会 2014 年)、サルコペニア(EWGSOP)、オーラルフレイル、ロコモティブシンドローム(日本整形外科学会 2007 年)などの概念が重要で、この時期が「未病」「介護予防」の時期といえる。★第III期=介護・認知症対策期(75 歳から)地域包括ケアシステム、認知症対策、認知症の早期発見方法、地域とのつながりなどが重要となる。(6)さらに、人間をとりまく生活空間を同心円的に「人間」→「家(住居)」→「サービス拠点」→「社会環境・コミュニティ」→「公園などの外部インフラ」の順で分類した。(7)この同心円的空間枠組みと、前章の、時間的枠組みを重ね合わせることにより、すべての健康政策を、時空間枠組みマトリックスで分類できることを説明した。(8)さらに、個々の段階で成功例のモデル化を試み、4つのモデルにまとめた。モデル1 は「まちづくり、公園、拠点づくりの参加促進インフラモデル 」である。モデル2は「介護予 防 の た め に 必 要 な 居 住 環 境 整 備 モ デ ル 」で あ る 。モ デ ル 3 は「 人 間 行 動 変 容・報 酬 モ デ ル 」である。モデル4は「社会参加促進(コミュニティ)モデル」である。(9)特に、健康寿命の延伸に必要な運動に無関心な層7割に対し、行動変容をおこすインセ ンティブポイント政策の有効性を、高石市にてみた。ポイントの成果としては、効果はあり、 参加者の歩数、健康づくり教室への入会者数、国民健康保険の特定健診の参加割合、ポイント が付与されない高石市内スポーツ施設の年間利用者数、商品券利用、BMI値に改善がみとめ られ、医療費上昇抑制効果が1.4億円あった。

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